私は子供の頃、愛媛県の小さな町に住んでいましたが、その町内では夏休みに『地区対抗ソフトボール大会』がありました。この大会は町内在住の小学5-6年生がほぼ全員参加するイベントで、約20チームのトーナメント戦でした。普段はソフトボールをやらない私も大会前にはリトルリーグの練習を休んでソフトボールの練習をしました。
「ほぼ全員参加」という今ではあり得ないような大会ですが、その大会には「最低2名、女子選手が常時出場」というルールがありました。
リトルリーグの主力選手だった私は5年生の時から試合に出してもらっていました。試合前、ある女子選手のお母さんに「うちの子が試合に出るけど下手なのよ。足をひっぱるかもしれないけど助けてあげてね。」とお願いされました。
当時の私には「明確な勝算」があったので、
「大丈夫。任せといて!」
と言いました。

私の勝算というのは
「ソフトボール慣れしていない女子選手は全部のチームにいる。条件は同じ。そして必ずどのチームも女子選手を狙って攻撃してくる。ということは女子選手を一番上手くフォローしたチームが絶対に勝てる!」
という目論見でした。
試合では女子選手がセカンドとライトを守っていたので、私は自分で希望してセンターを守りました。女子選手の2人には
「自分で捕れるボールだと思ったら『オーライ!』って言って。それ以外は全部僕が捕るから。」
とだけ打ち合わせしました。普段、硬式球で野球をやっていた私にとっては「打球の遅いソフトボールの打球を広範囲に追うことはそれほど難しくない」という判断でした。右中間やセカンドとライトの間に落ちそうなボールを上手くフォローすることで他チームよりも圧倒的に失点を防ぎ、5年生の時は準優勝、6年生の時は優勝しました。
この体験は私の指導者としての考え方の礎となっています。
「ミスしてはいけない」と思えば自軍選手のミスに対して腹が立つけど、「ミスは必ずある」という前提に立てば、「必ず発生するミスをどうカバーするか」と発想転換できる。
その6年後。高校野球を引退した直後の夏休みに町内会の役員をされていた当時の女子選手のお母さんから「監督をやって欲しい」とお願いされたために、後輩たちを率いて同じ大会に参加しました。選手には当時の自分が考えていたことを伝え、
「ミスは必ずある。俺も覚悟してる。だから誰かがエラーした時こそ自分が頑張る。それを一番やりきったチームが必ず優勝できる!」
と言いました。
この「決まり事」をやりきって、チームは6年ぶりに優勝しました。
現代の学童野球も「女子選手を必ず入れる大会」や「必ず下級生と混成にする大会」をやれば、「技量の劣る選手を責めるのではなくフォローする」という発想が育まれないかな?と思っています。中学生だと男女の体力差が大きくなるので難しさもありますが、小学生であれば十分可能だと思います。
良い社会は「力のある者が威張る社会」ではなく「強者が弱者を助け、互いに共生できる社会」だと思います。
野球の世界でもそんなチームが増えて欲しいと願っています。